官僚はパブリックコメントをどう考えているか
PLC高速電力線通信に対するパブリックコメントは終了しました。何通集まったのかというところに興味が移りますが、それ以上に気になるのは「官僚はどう受け取るのだろうか?」という点です。携帯電話の番号ポータビリティ制度に対するパブリックコメントも始まりますので、パブコメ制度について想像を含めてつらつらと書いてみます(無駄に長いです。ごめんなさい)。
霞ヶ関官僚日記を見る
パブリックコメントはお役所の決める問題に対して、民間からの声を反映させようというもの。当ブログの記事パブリックコメントとは?でも取り上げましたが、多数決ではない上に、必ずしも民間からの意見が取り上げられるわけではありません。「意見は伺いました」とだけ発表して、官僚が考えるままに決めちゃってもいいわけです。
ではパブリックコメントという制度そのものを、官僚はどう考えているのでしょうか。霞ヶ関の官僚さんが書いている有名ブログ「霞ヶ関官僚日記」を覗いてみました。
■[役所]パブリックコメントの話
===引用===
bewaadさんがおっしゃるように、「普通」、役所は相当広範囲の政策オプションを考え、役所内で揉んで詰めて詰めまくって、審議会でも詰められて、主計局にも詰められ叩かれ、政治家にも叩かれて、ようやく審議会報告等の形でまとめることになる(よって出来上がった政策が「おもしろみのない」「調整の結果何がなにやら分からない」政策になることもしばしばである)。であるからして、たとえ反対意見が山のように来ようとも、論理的に跳ね返すだけのバックグラウンドがあるはず。「普通」は。
業界団体や消費者団体、その構成員等が出す反対意見は大抵あるひな形に沿って送られてくるので、そのひな形に反論すればそれで終わり。パブコメは別に多数決の世界じゃないので、反対が多数でも原案のとおり通すこともあるし、少数反対意見でも重要なものは採りあげて検討することになる。
===引用終了==
なるほど、パブリックコメントにする時点で、もう問題点はすっかり洗い出してあり、反対意見が来ても論理的に返すバッググラウンドがあるとおっしゃっています。
ちょっと独善的にも聞こえますが、それだけ手間と時間と知恵をかけているんでしょう。日本の官僚は色々批判はされますが、もっとも優れた人材を集めていることは間違いなく、鋭い認識力と判断力を持っている有能な人たちが数多くいます。だから彼らが必死になって作った案であれば、そうそう間違いはないだろう、日本の将来を考えてのことなんだろうと思います。
本当に理解できてます?大丈夫?
ただ今回のような「PLC・高速電力線通信」なんてジャンルの場合、本当に理解できるのか疑わしい部分があります。ネットの将来動向をちゃんと見ているか、海外の動きを把握しているか、短波帯のことを知っているか、などの知識があるのか疑問です。これらの知識があれば、もうちょっと違った形で案が出てくるはずだからです。
今回のPLC高速電力線通信を推進したい理由は大きく分けて2つあると思われます。
1:ネット家電のインフラとして
2:アジアでのアクセス系PLCで日本企業が主導権を取るため
この2つともビジネスの問題、言ってみれば旧通産省的な発想です。しかしネット家電の問題では、PLCはあくまで過渡期の技術であり、爆発的に普及するような代物ではありません。スピードも遅いし、何より普通のLANケーブルが来てればいい話なんですから。
2つ目のアジア市場への展望ですが、今回のPLCはあくまで屋内(In-house)だけ。光やADSLのライバルとなるアクセス系の技術は考えられていません。というか、その話は2002年にすでに時期尚早として見送られているわけで、今回の案が通ったとしてもアジア市場を握るような技術は生まれてこないでしょう。
極端な話、短波帯に対してまったく妨害がないとしても、魅力のあるサービス・儲かるサービスじゃないんです。それが見えているはずなのに、推進しているのはよく理由がわかりません。
お役所の意図と目的をハッキリ出すべき
私が言いたいのはパブリックコメントにするなら、もっとハッキリお役所の考えを出しちゃいなさいよ、ということ。「私たち官僚はこうしたい」「こうすれば日本の企業は儲かる」「こうすれば日本はよくなる」などの考え方をストレートに出すべきです。「PLCはこんな理由があるから推進したい」「ipod課金はするべき」「番号ポータビリティによって携帯業界をこうしたい」なんて目的と意図をハッキリ出すのです。
いいか悪いかは別として、現在の日本の政策の大半は官僚が考えています。ならばストレートに目的と意図を出したほうがいいでしょう。それをしなければパブリックコメント制度に意味なんてありません。
3万通あっても却下。さらに行政指導
ちなみに今までのパブリックコメントで、もっとも数を集めたのは800MHz帯の携帯電話周波数割り当てに関するもの。ソフトバンクと日本テレコムがダイレクトメールでユーザーの意見提出をあおったおかげで、何と3万2,851通以上もの提出がありました。ただしこの結果に総務省はおかんむりで、
==引用==
意見の提出を呼びかけるメールを送付した行為に関して、両社の利用目的が個人情報の「収集・利用目的の特定」を求めた「電気通信事業における個人情報保護に関するガイドライン」(平成10年12月2日郵政省告示第570号)に違反していたことから、違反状態を是正するよう行政指導を行いました。
==引用終了==
と行政指導でお灸を据えるという事態になってしまいました。
それで結果としては3万通以上の反対意見があったにも関わらず「方針を原案通り決定」しました。つまりパブリックコメントはまったく意味がなかったというわけ。
これじゃあパブリックコメントを出した人だけでなく、必死で集計したであろう総務省担当者も浮かばれないでしょう。まさに無駄な汗です。
現在のパブリックコメント制度は欠点が多すぎます。制度をちゃんと見直して、きちんと法制化するべきです(パブリックコメント法制化については、仕事増を嫌う官僚が反対しているとの噂あり。それこそパブリックコメントにかけてほしんもんです)。
●参考サイト
3万通事件の東京新聞の報道(元記事削除につき掲示板での流用にリンクします)
パブリックコメントって何? ソフトバンク“総動員”で注目 (東京新聞)
3万通パブリックコメントの結果 ソフトバンクなどが行政指導を受けている
800MHz帯におけるIMT-2000周波数の割当方針案についての意見募集の結果及び方針の決定