他社へ移行する?しない?ユーザー動機を整理する
携帯電話の番号ポータビリティ(MNP、ナンバーポータビリティー)について、総務省の担当者は「長い目で見れば、携帯電話全ユーザーの3割程度が移行するのではないか」とコメントしています(雑誌「ケータイBEST」)。そこまで多くの人が移行するかどうかはわかりませんが、ケータイ業界とユーザーにとってターニングポイントになることは間違いありません。
では番号ポータビリティ制度スタートで、本当にユーザーは他社へ移行するでしょうか? ユーザーが移行する理由を改めて整理してみましょう。
まず最初は「他社へ乗り換えるか」「乗り換えないか」という単純な命題から。下の図は「乗り換えたい」「乗り換えたくない」の2つの動機を単純化したものです。
「乗り換えたい」と「乗り換えたくない」という二つの動機の重さを比べています。人によって動機の重さは違うため、右へ行くか左へ行くかは人それぞれ。たとえば、他社のサービスや端末(ケータイ)に強く魅力を感じるのであれば、左が重くなって乗り換え意欲が強くなります。逆にメールアドレス変更がイヤだと思えば、右が重くなって乗り換え意欲は弱くなるでしょう。
番号ポータビリティで他社へ移行しやすくなっても、問題ははいくつか残ります。メールアドレスが変更になること、今までダウンロードした音楽・映像・アプリなどが無駄になる、料金が一時的に高くなるといった問題です。これらの問題と、他社へ移行したいという意欲・動機を、図のように比べてみることが大切です。もし迷ったら、この図を思い出してよく考えてみてください。
乗り換えの動機を整理する
さらに詳しく、ケータイ会社の乗り換えの動機を見てみましょう。下の図はマーケティングの手法で、動機を整理したものです。横軸は動機の性質で、右へ行くほど「機能・実用性の強いもの」、左へ行くほど「印象・イメージの強いもの」になっています。縦軸は乗り換え意欲を現したもので、上は他社へ移行したい、下は移行したくないと考える要素をおおまかに並べています。
まず右上にあるのは「ハード(端末)の魅力」。今までのケータイ業界の戦いでは、より魅力のある端末を出したほうが勝つ、という法則がありました。ケータイ会社が提供するサービスよりも、実際に手にするハードウェアの魅力が重要だったのです。番号ポータビリティー後も、いかにメーカーが面白い端末を出してくるかが勝負となるはずです。
それに対して左下にあるのは「人間の保守性」。変なキーワードが出てきましたが、人間には一度使ったものはそのまま使い続けるという習性があり、それがケータイ会社移行を阻止する要因ともなります。
多くの人は、複数の要素から移行するか・しないかを決めます。「GPSを使いたいし、ワンセグも見たいからauにする」「家族がドコモだしフリーサイトもいっぱいあるからNTTドコモへ」のように、複数の要素が魅力的だと感じて移ることが多いでしょう。
しかし「移行しない」と考える場合は、1つの要素がダメというだけで決まる場合があります。たとえば「メールアドレス変更はイヤだ」「ダウンロードした着うたがもったいない」なんて理由です。こだわる理由が一つでもあれば、現在のケータイ会社を使い続けることになります。
ここが番号ポータビリティ制度の難しいところ。サービスや端末をいくら魅力的にしようとも、わずかな理由一つだけでユーザーは今までの会社を使い続けます。人間の保守性を崩すだけの強い武器がなければ、ユーザーは動きません。
MNPは移行しないユーザーに有利?
サービス、端末、料金のいずれでも強力な武器を持つことが、ケータイ会社に要求されます。ケータイ会社にとっては今までにない試練。サービスの充実、商品開発への投資、料金値下げといった方策を取らなくてはなりません。
逆に言えば、ユーザーにとっては実にありがたい話です。
他社へ移行しない人にとっても、現在使っている会社がサービス・端末を充実させ、料金を下げてくれるからです。
もしかしたら番号ポータビリティで移行する人は少数かもしれません。しかし上の図にまとめたような要素が充実・改善されるため、すべてのユーザーに大きな恩恵が得られます。それだけに番号ポータビリティは、ユーザーにとっても大きなターニングポイントとなるのです。