Youtube視聴は違法?:私的録音録画小委員会のひどい人選に絶望
9/23 11時追記
委員会名簿の古いものを掲載してしまいました。間違った情報を掲載したことをお詫びします。申し訳ありません。2007年4月現在の名簿に差し替えております。はてなブックマークのコメントで頂きました。ありがとうございます。
ご存知のように朝日新聞がこんな記事を出しています。
「無許諾の音楽・映画 ネットで入手、自宅でも違法に(9月21日)」
http://www.asahi.com/national/update/0921/TKY200709210236.html
インターネット上で、著作権者の許諾を得ずに流通している音楽や映画などの作品を、一般の人がパソコンなどにダウンロードする行為が違法になる公算が大きくなった。現在は、個人が家庭内で楽しむ範囲であれば違法でないが、文化庁・文化審議会の著作権分科会・私的録音録画小委員会が「違法化」で著作権法を改正する意見が大勢となったとする中間報告案をまとめた。26日に公表される。
(中略)
法改正が実現すれば、ユーチューブにテレビ局の許諾なしに第三者が違法配信した過去のテレビ番組を自宅のパソコンに取り込むことや、携帯電話の「着うた」の違法サイトから楽曲を自分の携帯電話にダウンロードすることも法に触れる行為となりうる。
Youtubeやニコニコ動画に流れる違法ファイルを見たら、見ただけの人も違法になるかもしれません。まだ決まった訳ではありませんが、中間報告が出た後に、形としてパブリックコメントが行われます(パブリックコメントについては、以前の記事パブリックコメントとは?をご参照ください)。今までの経験からすると、パブリックコメントで大勢が引っくり返ることはまずありません。このまま通ってしまう可能性が高くなってきました。
ニコニコ動画やYoutubeを見たらアウト?
今までの大原則は「アップは違法、ダウンは問題なし」というものでした。Youtubeやニコニコ動画に、テレビやDVDの作品を勝手にアップロードするのは違法。WinnyやShareなどに映画や音楽を流すのも違法です。
ただしダウンロードする側には問題はありませんでした。責任があるのは配布した側であり、ダウンロードしたからといって検挙されることはなかったのです。
しかし今回の中間報告が通ってしまうと、Youtubeやニコニコ動画に流れる違法コピーのファイルを見ただけの人も、違法の可能性が高くなります。ストリーミングといえどもユーザー側にファイルを落としながら見せるわけですから、ダウンロードの一種だと考えられるでしょう(ただし「違法であることを認識した上で」ダウンロードしたことが条件。「違法とは知らなかった」と言えば、ダウンロード側・視聴側は違法にはならない)。
今やニコニコ動画やYoutubeは、コンテンツ制作側が有効な宣伝手段として認識しています。Wiiの販売スタート時にYoutubeにCMを流しまくったのは、もう半年以上前の話。またテレビ局やコンテンツ制作会社も、積極的に動画共有サービスを宣伝手段として使い始めました。今さらYoutubeやニコ動を「違法じゃ!」と言うのは、時代遅れもはなはだしい。もう世の中は違法であろうとなかろうと、ネット上の強力メディアとして認知しちゃってるんですから。それもコンテンツを作っている側が、ですよ。
私的録音録画小委員会のメンバーを見る
さてこんな時代錯誤の中間報告を出した「私的録音録画小委員会」とは一体なんなのでしょうか。この委員会は文化庁長官が、著作権法について諮問する「文化審議会・著作権分科会」のうちの1つ。その著作権分科会には、個別の問題を検討する小委員会があり、そのうちの1つが「私的録音録画小委員会」です。iPod課金やハードディスクレコーダー、DRMなどの問題を扱っており、2006年4月から2年近く20回以上もの委員会を開いています。
私的録音録画小委員会のメンバーを見てみましょう(2007年4月現在のもの。9月23日11時に訂正しました。間違った情報を書いたことをお詫びします)。
○ 私的録音録画小委員会
石井 亮平
(いしい りょうへい) 日本放送協会ライツ・アーカイブスセンター著作権・契約部長
井田 倫明
(いだ みちあき) 社団法人日本記録メディア工業会著作権委員会委員長
大寺 廣幸
(おおてら ひろゆき) 社団法人日本民間放送連盟事務局次長
大渕 哲也
(おおぶち てつや) 東京大学教授
華頂 尚隆
(かちょう なおたか) 社団法人日本映画製作者連盟事務局次長
亀井 正博
(かめい まさひろ) 社団法人電子情報技術産業協会法務・知的財産権総合委員会
著作権専門委員会委員長
河村 真紀子
(かわむら まきこ) 主婦連合会副常任委員
小泉 直樹
(こいずみ なおき) 慶應義塾大学教授
河野 智子
(こうの ともこ) 社団法人電子情報技術産業協会法務・知的財産権総合委員会
著作権専門委員会副委員長
小六 禮次郎
(ころく れいじろう) 作曲家、日本音楽作家団体協議会理事長
椎名 和夫
(しいな かずお) 社団法人日本芸能実演家団体協議会実演家著作隣接権センター運営委員
津田 大介
(つだ だいすけ) IT・音楽ジャーナリスト
筒井 健夫
(つつい たけお) 法務省民事局参事官
土肥 一史
(どひ かずふみ) 一橋大学教授
苗村 憲司
(なえむら けんじ) 駒沢大学教授
中山 信弘
(なかやま のぶひろ) 東京大学教授
野原 佐和子
(のはら さわこ) 株式会社イプシ・マーケティング研究所代表取締役社長
生野 秀年
(はえの ひでとし) 社団法人日本レコード協会専務理事
松田 政行
(まつだ まさゆき) 青山学院大学教授,弁護士
森田 宏樹
(もりた ひろき) 東京大学教授
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/meibo/07040903.htm
私的録音録画小委員会委員名簿による
ええと、もしもし? この人選はいったいなんですか? 著作権を持つ側の人間、知的財産権の専門家ばかりが目に付くのですが‥。ユーザー側・消費者側の委員はいないのですか? なんとか目に付くのは、IT・音楽ジャーナリストとしておなじみの津田大介氏、そして主婦連合会から出席されている方ぐらいです。
他はNHK、民法、映画、音楽作家団体、レコード協会と「おれの権益守るぞ!」という人たちばっかり。大学教授の方は知的財産権の専門家です。これではYoutubeやニコニコ動画のことなんて、いやインターネットのことすら理解しているとは思えません。このメンバーの中で、ネットのことがわかっているのは、たぶん津田大介氏ただ一人でしょう。
孤軍奮闘の津田大介氏
津田大介氏の音楽配信メモによれば、
●著作権法30条を改正。ネット上に上がってる違法な著作物(着うたやらMP3やら動画やらP2Pやら)をユーザーがダウンロードすることを「犯罪」にする
あと2回を残した委員会の議事進行を見てると、もうこの2つは確定的になってしまったという感じ。前回の小委員会で「30条を改正して違法著作物のダウンロードを私的複製の外に置くというのは、概ね了承を得た」という文化庁のまとめに対して俺は「いや、僕は了承してないし、これ僕どうしても止めたいんですけど、それはどうすればいいんでしょう? これもう決まっちゃったことなんですか?」と身も蓋もない疑問を口にしたら、会場全員苦笑いみたいな空気に包まれて俺がいたたまれなくなったりもしたんだけど、本当にこれ、補償金とかどうでもいい小さな問題で、多くのネットユーザーを潜在的に犯罪者にするような法改正しちゃっていいのかよ、という懸念はずっとある。
「ダウンロード違法化/iPodの補償金対象化」がほぼ決定した件と、ITmediaの記事で抜粋されている発言についての補足
と9月7日に書かれています。この時点で、すでにダウンロード違法化は、ほぼ見えていたんですね。孤軍奮闘でがんばられた津田大介氏ですが、こんなことも書かれています。
まぁぶっちゃけ、僕はあの委員会に期待することはほとんどやめました。だから、俺は30条改正させるのが本当にイヤなので、メディアで記事書くなり、ほかの方法使うなりして全力で、自分のできる範囲でこれを止める活動に入ります。
で、10月に入ったらこの問題についてパブリックコメントの募集がある。パブコメで30条変更反対がたくさん来たらそれを文化庁もそれを無視して進めるわけにはいかなくなるでしょう。なんで著作権法変わるのがイヤな人は、みんなパブコメ頑張って送りましょうね。
ま、最終局面に入ってきたなという感じです。もうちょっとこの問題はきちんと音ハメ更新することも含めてアクティブにアナウンスしていこうと思ってます。
「ダウンロード違法化/iPodの補償金対象化」がほぼ決定した件と、ITmediaの記事で抜粋されている発言についての補足
うわわ、なんと津田氏はサジを投げちゃっています。それほど私的録音録画小委員会の状態がひどいようです(文化庁の議事録参照)。音楽配信メモの過去記事を読むと、そのことがよくわかります。このメンバーじゃ、どうしようもないですよね。
一般的にお役所が法律を変えようとするときは、委員会やワーキンググループに反対派をちゃんと入れます。賛成派よりは少ないが、反対派として意見を言える誰かが数人は入るものです(PLC高速電力線通信の時もそうでした)。ところが今回の私的録音録画小委員会は、オール与党状態。津田大介氏にしてもIT・音楽ジャーナリストして入っているだけで、ネットのサービス業者やユーザーの代表として出ているわけではありません。本当にひどい人選です。
なお今回の問題についてはP2Pとかその辺のお話の記事、ダウンロード違法化問題:著作権がインターネットを検閲するも参考になります。また栗原潔氏の著作権に基づいて立ち読みを禁止できるのか?もぜひご一読を。
サービス提供側のコストがハネ上がる
もし今回の中間報告が通った場合、大きな問題を抱えるのは動画や音楽のコンテンツ事業者でしょう。ニコニコ動画のような「違法アップロード」だと思われるところだけでなく、著作権者しかアップできないYahoo!動画に影響が出ます。
というのは、サービス提供者側が「これは著作権者のOKをもらっています」という認証を表示する必要があるからです。単純に「(C)マーク」を付けるだけではダメでしょう。著作権者のOKを暗証キーなりで取らない限り、「合法である」とは言い切れないからです。
ぶっちゃけ私が違法コンテンツをアップして「(C)みかみ」と付けちゃえば、合法のように見えてしまうからです。
そのため動画・音楽の配信サービスは、大きなコストアップを迫られます。DRMどころではありません。ネットの動画・音楽サービスを停滞させる可能性すらあるでしょう。メディアの皆様、どうぞ文化庁の一方的発表だけを取り上げず、ネットの状況を理解してください。違法だと決め付けたって、もう遅いんです。著作権者自体が、Youtubeやニコニコ動画を宣伝メディアとして利用している時代なんですから。