「電力線通信解禁」の総務省令を読み解く
10月4日付け官報号外の「総務省令」
「電力線通信が10月4日付け解禁。省令改正PDFデータ掲載」や、各サイトをご覧の通り、10月4日の総務省令でPLC・高速電力線通信の適合条件が発表され、ついにPLCは解禁となりました。10月4日付けの総務省令と告示を読み解いてみます。
省令上の名称は「広帯域電力線搬送通信設備」
まず総務省令118号と119号で、電波法の施行規則(※1)を改正しています。この中でのPLCの呼び名は「広帯域電力線搬送通信設備」。どうして法律がからむとこんな変な名前になっちゃうのか謎ですが、一つ面白い点があります。それは「高速」が抜けちゃっていること。今までは研究会等で、さんざん「高速電力線通信」と言ってきたのに、結果として「高速」をなくして「広帯域」という名前にしました。高速じゃなくなっちゃってことですな。
省令ではまず、電力線通信が出す伝導妨害波のレベルについて決めています。伝導妨害波は3つあり、
1:通信状態
2:非通信状態
3:放射妨害波(30MHz以上のもの)
という3つが決められています。
焦点は「通信状態の伝導妨害波」で、これが電力線通信のスピードを決める重要なものです。この妨害波のレベルは下記のとおり。
「dB(デシベル)」で言われても、ようわかんなーい。というのが正直なところですね。実際にこの値を基にしたPLCモデムでは、最大伝送速度が42Mbps(CEATEC2006 松下電工ブース)と伝えられています。あくまでも最大転送速度であり、100Vの電源線を使うPLCの場合、これより大幅に低くなることが予想されます。10Mbpsを出すのは難しいと考えたほうがいいのではないでしょうか。
ちなみにこの伝導妨害波のレベルは、6月に終了している電波監理審議会のCISPR委員会での答申と同じ数値。この席上でPLC推進側は「こんな数値では数Mbpsしか出ないかもしれない」と言っています。
PLCに必要な実験設備を告示
この他、省令では電力線通信の設備申請書の書式、型式検定のシール形状などを定めています。
次に告示では、電力線通信の妨害波計測のための設備を定めています。計測設備の配置は下記の通りです。
あれれ?電波監理審議会の答申を無視していませんか?
10月4日付けで出た省令と告示はこれがすべて。あれれ?なんか抜けてませんか? 単純にPLCの妨害波レベルと、実験設備を定めただけで、それ以上のことに何にも触れていません。もう一度、9月13日に出た電波監理審議会の答申に付けられた「要望」を見直してみましょう。
(1)許可に当たって他の通信に妨害を与えないと認めるために,必要な場合は資料提出や実地調査をするなど慎重に審査すること
(2)混信発生時に総務省が即応できる体制を整えること
(3)必要に応じて技術基準を見直すこと
(ITProの記事【続報】「PLC解禁案に対する意見書は異例の分厚さだった」--電監審会長が会見を参考にしています)
(1)も(2)も、今回の省令・告示では、まったくノータッチです。「要望」だから無視していいでしょうか? 審議会が出した要望を無視して、省令を出しちゃうんでしゃ、審議会を通す意味なんてありません。
「混乱発生時に総務省が即応できる体制を整えること」を忘れていませんか。総務省は専門の部署を作るなり、受付窓口を作って対応することを定めなければなりません。
詳しい情報をチェック
電力線通信の情報は、下記のサイトでわかります。我がサイトは貧弱なので、ぜひご参照ください。
PLC関連のサインニュースならイチ押し↓
クレージーこんてすたーズ
アマチュア無線関連&PLCのニュースブログ↓
JH3YKV’s Amateur Radio News
ラジオNIKKEI(旧ラジオたんぱ)さん↓
PLC問題を考える(ラジオNIKKEIブログ)
HF-PLC Watching Site
Preserve spectrum against PLC/BPL interferences
※1 オマケ
施行規則とは各省庁が定めるもので、法律を運用する方法を細かく決めるものです。つまり電波法の運用方法をちょっと変えますよーという意味で、電波法自体の変更はありません。そのため国会は通っていません。総務省だけで決めたものです。
国が決める法令には国会を通すものと、通さないものがあります。国会を通す、つまり国民の同意を得るのが「法律」で、政府や各省庁が決めるのが「省令(施行規則)」です。施行規則という名前からもわかる通り、法律の運用方法を細かく決めています。またさらに細かい条件等をまとめたものとして「告示」があります。
おおまかに言えば「法律」→「省令」→「告示」という順番です。今回のPLC・高速電力線通信については、法律は変えずに、「省令」と「告示」で対応しています。